整体院の売却相場と算出方法(年倍法)
整体院の売却相場はいくら?年倍法による算出の考え方
小規模な整体院の売却相場は、時価純資産に営業利益の1〜3年分を加える「年倍法」で算出されるのが一般的です。この式を知っておくだけで、提示された金額が妥当かどうかを自分で検証できるようになります。
相場の基本式と計算例
売却価格の目安 = 時価純資産 + 営業利益 × 1〜3年分(のれん代・営業権)
時価純資産とは、施術ベッドや電気治療器などの設備、内装造作、敷金・保証金といった資産から、借入金や未払金を差し引いた実質的な純資産です。のれん代は、ブランド力や患者基盤といった目に見えない超過収益力を評価した部分を指します。
たとえば、時価純資産300万円、営業利益400万円の整体院であれば、のれん代を2年分と評価した場合の目安は「300万円 + 400万円 × 2年 = 1,100万円」となります。のれん年数が1年なら700万円、3年なら1,500万円と、評価者の見立て次第で倍以上の開きが出る点が重要です。
なお、個人事業主の場合は、確定申告書上の利益をそのまま使うのではなく、院長の生活費的な支出や、事業に必須ではない経費を戻して「実質利益」を出し直すのが実務上の作法です。法人の場合も、院長の役員報酬を市場相場に置き換えて正常収益力を計算します。この調整を怠ると、実力より低い評価で交渉が始まってしまいます。
規模・形態別の売却額の目安
| 院の規模・状態 | 売却額の目安 | 主に評価される要素 |
|---|---|---|
| 内装・設備のみを引き渡す居抜き譲渡 | 数十万〜数百万円 | 造作の状態、施術機器、立地、退去までの猶予 |
| 個人経営1店舗・黒字・スタッフ在籍 | 数百万〜1,500万円程度 | 営業利益、患者数、有資格者の在籍、リピート率 |
| 法人・複数店舗・有資格者が複数 | 数千万円規模になることもある | 収益力、人材、エリア内の店舗網、仕組み化の度合い |
| 赤字・院長への依存度が高い | 実質ゼロ〜数百万円 | 設備、立地、賃貸条件、残るスタッフの有無 |
売却を検討し始めた段階で「とりあえず居抜きで」と考えてしまうと、本来受け取れたはずの金額を大きく取りこぼす可能性があります。まずは事業譲渡として売れないかを検討し、買い手が現れない場合に居抜きへ切り替えるという順番をおすすめします。
売却額を左右する評価ポイントと「磨き上げ」の進め方
評価額は「利益の大きさ」だけで決まるわけではありません。買い手が最も気にするのは、院長がいなくなった後も、その利益が続くかどうかです。ここを改善する事前準備が「磨き上げ」と呼ばれます。
評価を押し上げる要素・引き下げる要素
| 評価を押し上げる要素 | 評価を引き下げる要素 |
|---|---|
| 有資格者・経験スタッフが残留する見込みがある | 院長がほぼすべての施術を担当している |
| 施術手順やカウンセリングがマニュアル化されている | 技術やトークが院長の頭の中にしかない |
| 電子カルテ・予約システムが整備されている | 紙カルテ中心で患者情報が可視化できない |
| 月次の売上・客数・リピート率を数値管理している | 数字は確定申告時にまとめて把握するだけ |
| 賃貸借契約の残存期間が長く、条件が安定している | 契約更新が近い、賃料が相場より高い |
| 未消化の回数券・前受金が少なく管理されている | 未消化回数券が多く、残高を把握していない |
| キャッシュレス決済に対応している | 現金のみで、売上の裏付け資料が乏しい |
| 事業用と個人用の経費・口座が分離されている | 私的な支出が経費に混在している |
同じ理由で、DX化の遅れも評価を下げます。予約管理が電話とノートだけ、カルテが手書きで検索できない、キャッシュレス非対応といった状態は、買い手から見れば「引き継いだ後に投資が必要な院」です。その投資額は、そのまま買収価格から差し引かれます。
磨き上げの実践チェックリスト
売却の1〜2年前から着手できると理想的ですが、半年でも取り組む価値はあります。優先度の高い順に整理しました。
- 施術・接客の標準化:主要な症状別の施術手順、初診カウンセリングの流れ、リピート提案のトークを文書化する
- スタッフへの技術移譲:院長でなくても対応できる患者比率を意識的に高め、指名依存を下げる
- 患者データの整理:来院履歴、施術内容、通院間隔をデータとして抽出できる状態にする
- 数値の可視化:月次の売上、新規数、再来率、客単価、回数券の未消化残高を一覧化する
- 不要経費の見直し:事業に不可欠でない支出を整理し、正常収益力を高める
- 私的支出の分離:家事関連費や個人的な車両費などを事業から切り離す
- 契約書類の整備:賃貸借契約書、リース契約書、スタッフの雇用契約書、業務委託契約書を最新の状態にそろえる
- 回数券残高の把握:発行済み回数券の枚数、金額、消化状況を一覧表にまとめる
- 設備の整備:故障中の機器を修理するか、資産台帳から外して現状を明確にする
- 口コミ・評価の改善:ネガティブな口コミへの返信対応を含め、外部からの見え方を整える
売却スキームの選び方|株式譲渡・事業譲渡・居抜き
法人なら株式譲渡または事業譲渡、個人事業主なら事業譲渡が基本形です。どのスキームを選ぶかで、手続きの重さ、引き継がれる範囲、税金の扱いがすべて変わります。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 居抜き譲渡 |
|---|---|---|---|
| 利用できる主体 | 法人のみ | 法人・個人事業主 | 法人・個人事業主 |
| 譲渡の対象 | 会社の株式(会社ごと) | 店舗・設備・患者基盤・屋号などを個別指定 | 内装・設備などの物的資産のみ |
| 手続きの負担 | 比較的軽い | 資産ごとに移転手続きが必要で重い | 軽い |
| 従業員の引き継ぎ | 雇用関係はそのまま継続 | 個別に同意を得て再雇用する必要がある | 引き継がない |
| 契約・許認可 | 原則そのまま維持される | 賃貸借・リース・届出は個別に承継手続きが必要 | 賃貸借の再契約が必要 |
| 簿外債務のリスク | 買い手が引き継ぐため慎重に調査される | 対象を選べるため買い手が引き継ぎにくい | ほぼ生じない |
| 売り手の税負担 | 個人株主は株式譲渡益に分離課税 | 資産区分ごとに課税、消費税の検討も必要 | 資産譲渡として課税 |
| 金額水準 | 高くなりやすい | 中程度 | 低い |
とくに見落とされがちなのが、テナントの賃貸借契約は自動的に引き継がれないことです。賃貸人の承諾を得て契約を承継するか、買い手が新規に契約を結び直す必要があります。オーナーが承諾しなければ話がまとまらないため、譲渡の方向性が固まった段階で早めに打診しておくべき論点です。
同様に、施術機器のリース契約、複合機やウォーターサーバーの契約、電子カルテのシステム契約なども、それぞれ承継可否の確認が必要です。整骨院・接骨院として運営している場合は、施術所の廃止届と新規の開設届、受領委任の取扱いに関する手続きが別途生じます。